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ハイルプラクティカーとは

ハイルプラクティカーとは

ドイツに住んでいると耳にしたり、街角で目にするハイルプラクティカーという職業。

一体なにをする仕事なのか。日本にはないもので、イマイチわからないという人もいるだとう。ホメオパシーや鍼治療などに代表されるような代替療法を行う者、いわゆる自然療法士という訳で紹介されることも多いが、専門とする治療法は人によって様々である。ここで、ハイルプラクティカーという仕事について説明したい。

 

ハイルプラクティカーは法律でさだめられた職業

ハイルプラクティカーとはドイツの国家資格であり、ハイルプラクティカー法(HeilprG)の定めるところに基づき設定された医療資格である。ここでは、医師以外で、患者を診察し、診断をくだし、治療することを許された者という定義がある。基本として、患者を診察して治療におよぶのは医師のみに許された行為である。それは日本でも同じだ。しかし、ドイツはそこにひとつだけ例外を設けた。それがハイルプラクティカーである。医師ではないものの、基本的な医療の知識を有することが証明されているため、国民の健康を損なわない範囲においてその行為を許可されているというものだ。

例えば、伝染病を扱う医療行為は禁止されている(IFSG法)。これは当然のことで、現代医療(西洋医学)にこの点で勝るものはなく、即効性と確実性が何よりも重要なテーマであるからだ。ハイルプラクティカーにはまた、出産の補助、歯科医療、レントゲン撮影、処方義務のある薬剤の処方など、様々な分野で禁止事項があり、資格試験の際もこれらの点を詳しく確認される。

 

ハイルプラクティカーができること

ハイルプラクティカーとはある一定の範囲のなかで許された医療行為を行うものだ。それは、現代医療だけではなく、別の治療法を受けたい患者に選択の自由を与えることだ。たとえば、強い薬は即効性があり、効果がでる可能性が高いかもしれないが、副作用があることもある。慢性の病などは、長らく薬を飲んでいるが一向によくならず、自分の体を根本的に改善に向かわせるには今までと違うアプローチもいいのかもしれない。手術を勧められているが、できれば体を痛めずにすむ方法はないものか。小さな子供にはできるだけ負担にならない方法を取り入れたい。体と精神、全体で自分の健康をとらえたい。そういった、だれもが自然に願うことを、ハイルプラクティカーは代替医療という形で治療法を提案している。

ハイルプラクティカーがおこなう代替医療は多様で広範囲にわたる。専門とする分野がそれぞれあるため、ハイルプラクティカーだから皆ホメオパシー治療をするというわけではない。例えばよくある治療分野に、ホメオパシー、薬草・ハーブ、整体、マッサージ、ヨガ、鍼治療、心理療法等などがあるが、これらのうちどれかを行っているということであり、代替医療全般を取り扱うということはない。そのため、治療に興味のある場合は、そのハイルプラクティカーのホームページを見たり、事前に連絡をとって治療方法を確認することが必要だ。

 

数字でみるドイツにおけるハイルプラクティカーの存在

現在ドイツには、約47千人のハイルプラクティカーが働いている。そこへ年間約46百万回患者が訪れており、その数は単純計算するならば、ハイルプラクティカー一人につき一年に約1000回診療を行っていると解釈できる。また、その年間売上高は約100億ユーロ(1Miliarden Euro)という規模で、ドイツ政府が2020年にコロナ対策で雇用維持助成金(12ヶ月分)にあてた規模に相当するほどの金額だ。(統計参照元:www. BDH.de 2017)。

 

また、ハイルプラクティカーの治療をすでに受けたことがあると答えたひと(ドイツ国内)は18%、また受けたことがなくても今後ありえると答えたひとは47%にものぼる(統計参照元:de.statistica.com 201610月調査)ことから、ハイルプラクティカーに対して興味をもち、前向きに捕らえている人が約65%にのぼることがわかる。一方、そうではない立場も当然あり、ハイルプラクティカーが行う代替医療へ不信を抱く人達がいるのも事実だ。そのため、ハイルプラクティカーの研修システム、試験基準、治療可能領域などを見直す取り組みなどが進められている。

ハイルプラクティカーの治療費は公的保険ではカバーされず、基本的には自費となる。プライベート保険で支払われるケースもある。そういった状況の中、ハイルプラクティカーを訪れる患者層はプライベート被保険者ばかりではない。その半数以上が自費で支払う患者層で構成されているという統計結果は興味深い(www.BDH.de)。保険内で受けられる医療だけではなく、保険適用外であっても自ら治療法を選び、それに対して支払う姿勢があるという表れだ。それは、人々が現代医療以外の治療法に興味をもち、エビデンスなどで裏づけがない代替医療にも信頼をよせることができることを示唆するものだ。

 

まとめ

ドイツ特有のハイルプラクティカーという資格は、1939年に法が制定されて以来の長い歴史がある。もちろん、日本にもドイツにも、法とは関係なく、民間療法、代替療法を行う人達はいた。ドイツでは、それらの人々に一定の医療の専門知識があることを条件とさせ、国民の健康を損なうことのない範囲での活動を許可した。ハイルプラクティカーの存在に対して賛否両論あるものの、健康や病気といったテーマで頼れる存在として、ハイルプラクティカーはひとつの選択肢であり、それを必要としている人々によって今日まで続いてきた職業である。現代医療も代替医療も含め、人々に選択肢があることは恵まれていると思う。高いクオリティーと安全性を提示できることが、ハイルプラクティカーの仕事に今求められていることだといえる。

 

 

ココロとカラダの自然療法 www.shimabe.de  ハイルプラクティカー 島部亜紀